夫婦間暴力(DV)とはどんなもの?
命に関わるような場合もあります
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、家庭内暴力の中でも、特に夫婦間や内縁関係における暴力を意味します。その特徴は、家庭という閉ざされた空間で振るわれる暴力であるため、配偶者等の生命や身体が危険にさらされるケースが多いという点にあります。
被害者が離婚を申し出ると暴力がエスカレートする場合も多いので、交渉の際には安全な住居を確保しておくべきです。避難先を探ろうとする配偶者もいますので、別居先が知られないよう気をつけなければなりません。
DV被害の主張・立証には、医師の診断書や怪我の写真、暴力を振るわれた日時や程度などの詳細なメモ、暴言等の録音記録といった確実な証拠が必要です。
離婚原因としてのDVとは?
肉体的な暴力のみならず、間接的暴力や心理的攻撃などの精神を傷つけるような行為もDVに当たります。
肉体的な暴力
殴ったり蹴ったりといった暴力行為です。物を投げつける行為も含まれます。
心理的な暴力
暴言や罵倒、他人の前で恥をかかせたり、ひたすら監視したりする行為をいいます。
社会からの隔離・孤立化
携帯電話などの連絡手段を取り上げ、社会との関係を絶たせたり、外出を制限し、他者との関わりを許さないといった行為です。
脅迫・強要
脅迫的な身振りや言動、子供やペットの虐待、私物を壊すなどの行為です。違法行為の無理強いも強要に当たります。
性的な暴力
夫婦間であっても性的能力への侮辱や性行為、不道徳的行為の強要はDVに該当します。
経済的な暴力
収入を得ている側が生活費や遊興費を与えない、仕事を制限する、家族の財産状況を不当に知らせないといった行為がこれに当たります。
子供を利用した暴力
子供の前での威圧的な振る舞いや言動、子供にそうした発言をさせるといったことです。
モラハラというのはどういうこと?
配偶者からの過度なイジメ・嫌がらせをいいます
モラハラ(モラルハラスメント)とは、相手を言葉や態度で威嚇・支配したり継続的に傷つけたりする精神的暴力を指します。いわゆる「精神的イジメ」です。最近では夫婦間のモラハラが離婚原因として急激に増加しています。
モラハラは相手との関係性を利用し、言葉巧みに追い詰めていき、最終的には被害者の方が自分を傷つけてしまうこともあるという点において非常にたちが悪く、深刻な暴力行為なのです。
モラハラと精神的なDVの関係性は?
精神的なDVとモラハラとは似ているようにも思えますが、加害者の心理面において違いがあります。DV行為は加害者側に多層なりとも罪の意識があるのに対し、モラハラの加害者にはそういった自覚は見受けられません。
それどころか、「自分は正しい」とか「自分の方が被害者だ」とかのような思いすらあるので、相手を傷つけているという自覚が生じないのです。これに対応して、被害者側も自分を責めたり卑下したりといったように、次第に追い詰められていきます。
モラハラの被害は肉体面や心理面にも表れます。ストレスによる胃潰瘍や目まい、抑うつ状態、酷い時には自殺にまで至ってしまう可能性もあるのです。
モラハラの具体例
モラハラの加害者というのは、周囲からもそれと覚られにくいものです。「外面が良い」というタイプが多いのと、夫婦喧嘩との区別が外部からはつきにくいという理由からです。
興奮状態にある時に暴言を吐かれたり嫌がらせのような態度を取られたりする場合には、単なる夫婦喧嘩か、言い合いがエスカレートしただけで、モラハラとまでは言えないと捉えられがちです。実際、裁判においても加害者はそうした反論をするでしょう。
しかしながら、夫婦の個別事情次第では、そういった行為もモラハラに該当する可能性はあります。被害者側は、自分の受けているのがモラハラなのだということを、裁判官を始めとして周囲にちゃんと伝わるよう、具体的記録をつけるなどして説明する必要があります。
モラハラは密行性が高い行為であり、家庭内という人の目の届かない場所で静かに進行する精神的イジメです。立証には十分気をつけなければなりません。
一般的にモラハラと捉えられる行為としては、以下のようなものがあります。
- 人格否定や能力否定を頻繁に行う
- ため息や舌うちを日常的に行ってくる
- 理由なく無視をしてくる
- 気に入らないことを配偶者のせいにして責め立てる
- 外出や他者との交流を不当に制限する
- 生活費や遊興費を渡さないなどといった経済的な制限
- 他人の前で欠点をあげつらう
- 子供や物に当たり威圧してくる
DVやモラハラを理由とする離婚の準備は?
別居する
何はともあれ、まずは離婚の意思が固まった時点で別居すべきです。というのは、離婚の申し出や離婚交渉の開始を切っ掛けとしてDVが激化し、命が危険にさらされるということが珍しくないからです。
DVの被害を普段から受けているという方は、安全のためにも不用意な離婚交渉を避けなければなりません。配偶者の襲撃や連れ戻しを避けるため、別居先は配偶者に知られないようにしなければなりませんので、避難先として自分の実家を選ぶのも止めておいた方が無難でしょう。
配偶者本人やその友人などに知られないような場所を探すのが適当です。そうした場所がすぐに見つからないのであれば、一時避難施設での保護を受けるという手段もあります。
各地域のDV被害者避難施設の「シェルター」などに相談してみるといいでしょう。
証拠集め
家庭内でのDV加害者ほど、外面は善人ということも少なくないといいます。そのため、調停や裁判でDVの被害をただ主張しても、調停委員や裁判官を納得させるのは難しいといえます。
DVの被害に遭っていることを立証するには、やはりしっかりとした証拠の提示が必要です。証拠は、具体的かつ客観的なものだと効果的です。
例としては、以下のようなものが挙げられます。
- DVによる怪我の診断書
- DVによる怪我の写真
- DV行為の録音
- DVを受けた日時や状況を具体的に記録したメモ
- 警察や支援施設に相談した際の記録
第三者への相談
DVを原因とする離婚交渉の場合、当事者同士のみの話し合いは困難であり、しかも危険です。DV専門の相談機関や専門家としての弁護士を介在させて話し合うか、早期のうちに裁判所への申立てをすることをお勧めします。
その場合、婚協議による円満な離婚というわけにはいかないでしょうから、裁判所へ申し立ててしまっていいのです。また、暴力行為による怪我などの被害があるなら、病院を通じた専門機関や警察への相談も有効です。
身の安全確保には別居がベストですが、生活費等の不安があるなら、公的な生活保護を受けるというのも一つの手です。
一人で悩みを抱え込まないでください
DV被害者に共通してみられるのは、加害者でもある配偶者のことを「良い人だ」と思おうとするということです。すなわち、暴力や嫌がらせをしている時は異常時であって、本来ならば善良で穏やかな人だ、というように思い込むのです。
そうでなければ、振るわれる暴力によって萎縮してしまい、逃げ出す気力を失ってしまったり無力感に囚われたりしてしまうこともあります。そうなると、事態がどんどん悪い方向へと向かっていってしまいかねません。そこから抜け出すには大変な労力が必要となります。
ひとりで悩みを抱え込んで取り返しのつかないことになる前に、信頼のおける第三者に相談しましょう。